「みなと食堂」




 山杜たちの間では通称「みな食」と呼ばれていた,大学生時代の4年間で何回通ったか数え切れない定食屋さんである。学生食堂で食べた回数より多いのではないだろうか?

 フェリー乗り場のすぐ近く。上磯町とのちょうど境。パチンコゴリラ向かい。こう書くと,現地に詳しい方は「あそこか」と思い当たるのではないだろうか。北大水産学部が近いこともあり,たとえ平日であっても昼時は若い男達で満員になる食堂である。山杜たちは若干時間をずらして行くのが常だったため,座れないという状況に出くわしたことはまれではあったのだが。

 学生を中心に絶大なる人気を誇るこの店。その理由はやはり味と量である。とにかくおいしい。山杜達が常に食べていたのは,骨なし唐揚げ定食チキンカツ定食である。他にもメニューはあるのだが,とにかくこの2品が大人気であった。やわらかくおいしい鶏肉がとにかくたくさん載る皿。コールスローもたっぷりつく。そしてみそ汁とドンブリ飯。ボリュームたっぷりでお値段なんと650円。貧乏学生であった山杜達には,まさに最高のごちそうであった。おそらく今食べろと言われても,量が多すぎると思う。学生時代は本当に腹を減らしていたのだなあとつくづく感じるのである。

 店内は20名弱ぐらいしか座れない,本当にこぢんまりとした定食屋さんではあったが,味・量・値段の総合ポイントでは,まず間違いなく函館No.1の定食屋であった。店構え同様,駐車場も2〜3台しか停められないため,山杜達は隣接した小さなゲーセンの駐車場にクルマを停め,みなと食堂で昼食を食べた後,ゲーセンに寄って遊んでいくというパターンをとっていた。やはりただで停めさせてもらうのは良心が痛むというもの。心配りのできる学生であった(笑)。

 山杜にとっての「みな食」の最大の思い出は・・・。

 ある日,テレビで見たか何かで突然「カツカレー」が食べたくなった我々(山杜,みっつ,Taka,Keita。Takuは確かいなかった)は,「みな食」に行って食べることにした。しかしその時,山杜は極貧の状態にあって「カツカレー」を頼むことができなかった。みな食のおばちゃんに「カツカレー3つ,ノーマルカレー1つ」と注文した。「ノーマルカレー」という言い方をおばちゃんに笑われながらカレーができるのを待った。

 やがてカレーがテーブルに届いた。1人寂しくカツのないカレーを食べる山杜。その時,おばちゃんがこう言った。「1切れずつ端っこのカツもらったら?」仲間達は快く端っこのカツをくれた。嬉しさで涙ぐみながらカツカレーに昇格したノーマルカレーを食べる山杜。その時事件は起こった。

 突然口内に激痛が走った。うれし涙が苦痛の涙に変わる山杜。いったい何が起こったのか?あまりの激痛に「あう,あう,あう」と情けない声を出す山杜。じつは数日前に中学生の頃詰めた歯の詰め物が取れて,奥歯に大穴が空いていたのである。カツを噛んだ瞬間,穴の側壁となっていた歯が部分的に折れ,むき出しになっていた神経に刺さったのだ!

 うがいにより歯の破片が取れ,なんとかその場は収まったが,おばちゃんに大笑いされ,「早く歯医者行きなよ!」と忠告までされてしまった。その日の午後から歯医者通いになったのは言うまでもない・・・。

 みな食の定食を食べなくなってかなりの年月が経つ。久しぶりに函館に出向いて,「骨なし!」と注文してみたいものである。今となっては量的に食べられるかどうか不安ではあるが。



戻る